射出成形の場合、実は射出成形の知識だけでは太刀打ちできないことも多いのです。
実際は製品の設計段階から勝負は始まっているのです!
特に、成形条件だけではどうにもならない部分もあり、製品そのものの設計や金型の設計を変更する必要が出てくることもあります。
この記事では、比較的メジャーな射出成形のコールドスラグについて、その対策やコールドスラグウェルについて解説します。
射出成形でのコールドスラグ、コールドスラグウェルとは
コールドスラグやコールドスラグウェル、言葉は似ていますが、全くの別物です。
後ほど詳しく解説しますが、理解しやすくするためにコールドスラグは不良の原因でコールドスラグウェルは不良の原因を取り除くためのものというイメージを持っておいてください。
それだけでこれから先の理解がしやすくなりますよ!
コールドスラグとは
コールドスラグを一言でいえば、樹脂温度が下がって生じたカス(不純物)となります。
スラグは「カス、不純物」という意味なので、コールドスラグは樹脂の温度が下がって固まってしまったカスだというわけです。
いや、あんなに高温の装置のどこでそんなことが⁉と思うかもしれませんが、あるんですよ、温度が下がる瞬間が!
樹脂温度が急激に下がる瞬間
樹脂の温度が急激に下がる瞬間は、ノズル先端の樹脂が金型に触れた瞬間です。
確かに金型の温度は高いです。私たちが普通に生活しているときは触れることが少ないような温度です。しかし、樹脂の融点や金型の役割を考えると、金型温度は樹脂にとって温度が低いのです。
金型の中で樹脂を冷却するので、当たり前といえば当たり前ですね。
この瞬間で樹脂の温度が急激に下がるんです。
コールドスラグ発生のメカニズム
では、コールドスラグの発生メカニズムをお伝えします。ビギナーとはいえ、技術者ですので、ある程度の知識は吸収しておきましょう。
お伝えした通り、ノズル先端の樹脂が金型に触れると樹脂の熱が金型に奪われます。その結果、コールドスラグが誕生するわけです。
この接触の時間が長いほど発生しやすくなります。
とはいえ、コールドスラグの発生を完全に防ぐことはできません。
コールドスラグウェルとは
続いて、コールドスラグウェルの解説です。
コールドスラグウェルは、材料溜まり呼ばれるように、発生したコールドスラグの受け皿のような場所です。
成形したサンプルを見てみてください。
スプルーからランナーに向かう途中などで、不自然に伸びているところがないでしょうか?
そこがコールドスラグウェルです。
コールドスラグが発生するという前提で、発生したコールドスラグをここに溜めてしまえば、コールドスラグからくる不良は防げる、というわけです。
ちなみに、コールドスラグウェルはコールドスラグだけでなく、分解ガスによる不良やボイドの発生を防ぐという役割もあります。
ホットランナーでも起こる
ちなみに、金型のスプルーやランナーを溶融状態でキープするホットランナー金型であっても、コールドスラグは発生してしまいます。
ですので、コールドスラグウェルは設計しておくようにしましょう。
コールドスラグによって起こる不良
コールドスラグが原因で発生する不良は主に2つです。
ひとつはショートショット、もうひとつはフローマークです。
コールドスラグによるショートショット
コールドスラグは温度が下がって発生してしまう固体です。当然、こんなのが流れ込んだら、樹脂の流れを阻害してしまいます。
これがゲートの前で止まると、ゲートが詰まってしまいます。ゲートが詰まってしまうと、想定通りの射出速度を出せなくなってしまいます。
その結果、樹脂が流れ切らず、ショートショットになってしまいます。
コールドスラグによるフローマーク
これはコールドスラグがそのままキャビティに流れてしまった場合に起こります。
同じ樹脂じゃないか、と思うかもしれませんが、冷え方が違えば外観は変わってしまいます。外観が異なるものは製品にとっては成分が同じ樹脂であろうと不純物です。
コールドスラグやそれが流れた場所がフローマークとして現れることがあります。
コールドスラグの対策
コールドスラグの対策は5つです。
1つ目はコールドスラグウェルを金型に作ることです。コールドスラグウェルがないままでは完全に防ぐことはできません。
2つ目は金型温度を上げることです。金型にノズル先端の樹脂が接触したときに熱を奪われるので、金型の温度を上げて奪われる熱を減らす、ということです。しかし、金型温度が上がりすぎると成形品の冷却にも影響が出る可能性があるので、様子を見ながら変更してください。
3つ目は射出速度を速めることです。ゆっくり射出するとその分熱も奪われやすくなってしまうので、すぐに流してしまおう、ということです。速すぎたらそれはそれで別の不良につながるので慎重に調整してくださいね。
4つ目はノズルタッチ時間を減らすことです。ノズルタッチ時間が短ければ熱を奪われる時間が減るという考え方ですね。
5つ目はサックバック量(デコンプ量)を減らすことです。サックバック量(デコンプ量)はあまり変更する機会はないかもしれませんが、これまでの方法で改善しなかったら試してみてください。
デコンプに関してはこちらでも紹介しているのでぜひ読んでみてください。
まとめ
今回の記事はコールドスラグ、コールドスラグウェルについて解説し、それによる不良や対策も紹介しました。
対策に関しては、これだけやればOKというものは無いので、成形品の出来栄えや樹脂の特性を考慮して少しずつ調整していってください。