射出成形を行うと、必ず出てくるのが「不良」ですよね。私も日々悪戦苦闘しています。そもそもこれはどんな不良で、どこに原因があるのか、さっぱりわからないということもよくあります。
そういう時は一つ一つ仮説を立て、紐解いていくしかありません。その時必要になるのが網羅性のある知識です。
これがなければ抜けや漏れが出てしまいますからね。
そこでこの記事では、射出成形のエア巻き込みに焦点を絞って、なぜ発生するのか、発生するとどんな不良につながるのか、どう対策すればいいのかを解説していきます。
射出成形でエア巻き込みが起こる理由
早速ですが、エア巻き込みの発生メカニズムを解説します。
不良と対策だけわかればいい、と思わないでください。
理解してこそ正しい対策ができるというものです。理論を学ぶのは疲れるかもしれませんが、できるだけ簡潔にお伝えし舞うのでガンバってください!
エア巻き込みが起こるのは大きく3つで、樹脂の乾燥によるもの、成形条件によるもの、金型の設計によるものの3つがあります。
樹脂の乾燥不足によるエア巻き込み
1つ目は樹脂の乾燥不足によるエアの巻き込みです。
樹脂の乾燥不足の状態とは、水分が残っている状態です。
ホッパーからシリンダーに行くと…と考えてみてください。樹脂によりますが、シリンダー内の温度は余裕で100度を越えていますよね。
私の使っている成形機はパネルで設定してあとは器械が動かしているだけなのであまりじっかんはなかったのですが、いざ振り返ってみると、こんな近くにあんな高温のものがあるのか、とヒヤッとしました(笑)
少し脱線しましたが、樹脂に水分が残っていると高温状態のシリンダー内で気体になってエア巻き込みとなるんです。
金型によるエア巻き込み
2つ目は金型の設計の問題です。
金型には空気を逃がすための通路があります。これをエアベント(エアーベント)やガスベントと呼びます。
金型に樹脂が流れ込むとき、金型の中には空気が入っています。真空ではないですからね。
このエアベントが適切でないと金型内のエアが抜けず、成形品に巻き込まれてしまいます。
成形条件によるエア巻き込み
3つ目は、成形条件が不適切でエアを巻き込んでしまうことです。
代表的なものは射出速度が速すぎることです。
射出速度は射出圧力で決まるじゃないかとかいろいろあるかと思いますが、樹脂が流れる速度と考えてください。
本来であれば金型の中に入っている空気は、金型の中にある「空気を逃がす道」であるエアベントから出ていくはずなんです。
しかし、射出速度が速すぎると空気が逃げ遅れたり、巻き込まれたりすることが起こってしまいます。
このようにして射出条件によってエアが巻き込まれることがあります。
射出成形でエア巻き込みによって起こる不良
射出成形で起こる不良は「この不良は絶対これ!」といった形ですぐに特定できないものの方がたくさんあります。
しかし、この記事では、「エアの巻き込み」という観点で不良とその対策を紹介します。
シルバーストリーク(銀条)
シルバーストリーク、シルバー、銀条などと呼ばれる不良は表面に現れる外観不良です。表面にキラキラしたような光の反射の具合がちょっと違う見え方をします。筋状の形状の場合が多いですね。
これの原因はシリンダー内や金型内でエア巻き込みが起こることです。
シリンダー内でエア巻き込みが起こる場合の対策としては
- 背圧を上げる
- 射出速度を下げる
- 金型温度を上げる
の3つです。
この3つはこれまでの説明と直結しているのでご理解いただけるかと思います。
金型内のエアー抜き不良の場合の対策は
- 射出速度を下げる
- 射出速度を多段切替にする
- 型締め力を下げる
の3つです。
射出速度の多段切替は樹脂の流れやすい場所・流れにくい場所があるので、場所によって変えてあげるということです。そこで速度を招請してあげることでエア巻き込みを回避するというわけです。
型締め力を下げるのはエアベントからのエアの逃げ道を確保するためです。型締め力を上げるのはバリ対策等には確かに有効です。
しかし、上げすぎると金型に負担がかかって金型の寿命が短くなったり、ガスベントが狭くなったりします。ですので、少しだけ型締め力を下げてエアの逃げ道をちゃんと確保するというわけです。
私の初めての成形ではシルバーにめちゃくちゃ苦労しました。成形機や周辺機器を使いこなせない苦労もあり、原因までうまく追求できず、と大変でした。私の場合は金型温度を上げることで解決しました。
ボイド
ボイド(気泡)は成形品に空気が入ってしまう不良です。
肉厚の熱い製品で起こりやすくなります。
ボイドの原因はシリンダー内でのエア巻き込みや金型内のエアー抜き不良の2つの原因があります。
理由や対策はシルバーストリークと同じになります。
ウェルドライン
ウェルドラインは樹脂の合流地点が表れてしまうことですが、樹脂の流れ方によっては完全になくすことは不可能です。
ですので、対策の方向性としては「ウェルドラインをなくす」ではなく、「ウェルドラインを見えにくくする」としましょう。
ウェルドラインをなくそうとすると沼にはまります(笑)
ウェルドラインの原因はどこかしらでエアの巻き込みが起こることで発生することもあります。
対策としては
- 射出速度を下げる
- 型締め力を下げる
- 樹脂感想を十分に行う
という3つです。
ウェルドラインの対策ではないのですが、エアの影響を減らそうと思って、メーカー水晶の樹脂感想温度より少し高めに設定したこともあります。
数値で表現できませんが、エア巻き込みの影響は減ったように感じました。
まとめ
今回は「エア巻き込み」という点に絞って、エア巻き込みが起こるメカニズムや不良と対策等を解説しました。
厳密にいえば、これもエア巻き込みじゃないか?という他の不良もあるかと思います。
焼けやブラックストリークはエア断熱やエア圧縮が原因で起こるのでこれもエア巻き込みがもとでは?となるかもしれませんが、問題の切り分けのコツは近いところから当たっていくことです。
ですので、「エア巻き込み」に直結する現象や対策からまずは整理していきましょう!