現在、身の回りを見渡せば想像以上の樹脂製品にあふれていますね。それだけたくさん作られているというわけです。
そうなると、会社で樹脂の成形を任されることもあるかもしれません。何を隠そう、私も門外漢でありながら、樹脂の仕事、特に「射出成形」の業務を行うことになりました。
この記事では、その中でも塩ビの射出成形での注意点を紹介します。
成形って、めちゃくちゃ難しいですよね。私も日々四苦八苦していますが、一緒に乗り越えていきましょう!
塩ビの射出成形の注意点はこれ!対策も紹介!
ポリプロピレン(PP)やポリスチレン(PS)のような扱いやすい樹脂と違って、塩ビって厄介ですよね~。安くて丈夫な汎用プラスチックで使う側にはありがたい存在でも、成形する側の私たちからすると、なかなか厄介な樹脂のひとつですよね。
不良を少しでも減らすためにこれから5つの対策を紹介します。
スプルー、ランナー、ゲートを太く短くする
ノズルから射出された樹脂はスプルー→ランナー→ゲート→製品という経路で金型に流れていきますよね。
でもここって狭いんですよ。
つまり、圧力がかかりやすいんです。
塩ビ、特に硬質塩ビでは流動性が悪いため、こういったところでなかなか流れてくれないんです。十分に樹脂が流れないとショートショットになる可能性があります。
ですから、その対策として金型の設計段階で射出圧力の伝達をよくするためスプルー、ランナーゲートを少しでも短くしておきましょう。
この経路の長さを短くすることで、樹脂にとってしんどい時間を短くしてあげるということです。
温度管理を十分に行う
射出成形では、成形温度はめちゃくちゃ大事です。釈迦に説法ですが、めちゃくちゃ大事です!
そして塩ビ、この子にとっては特に大事!なぜなら、熱安定性が悪いからです。
塩ビが耐えられない温度まで上がってしまうと、割と簡単に熱分解してしまいます。そうなったら製品としてはNGです。期待通りの物性は出ませんからね。
対策としては、常にシリンダ内やノズルの温度を確認し、温度が上がりすぎないようにしましょう。
グレードによっても異なりますが、参考として樹脂温度は160~220℃程度、金型温度は20~70℃です。必ず、お使いの塩ビのデータシートを参照してください。
射出速度は遅め
あとは射出速度も大事です。
射出速度による不良はいろんなパターンがありますが、塩ビの代表的な不良に「焼け」があります。
焼け発生のメカニズムは、簡単でゲート部で摩擦熱を発生し、その熱が原因となって焼けが発生します。
焼けは非常に厄介で、成形した樹脂が不良になるだけならまだいいんですが、金型のさびにつながってしまう可能性もあるのです。
みなさんご存じの通り、金型って…めっちゃ高いですよね。安くても数十万、高ければ桁が簡単に増えますから、扱うだけでもひやひやです(私は)。金型の保護のためにも、やけを発生させないようにしましょう。
この対策としては、いきなり速い射出速度で成形しないことです。
遅めの速度からスタートし、徐々に上げていきましょう。
ちなみに、この原因は、塩ビの流動性の悪さにあります。わがままですね、ほんとに。
成形品の肉厚を可能な限り厚くする
これは製品の設計そのものですが、薄肉の製品は設計しないようにしましょう。
焼け防止のために射出速度を遅くすると、必然的にスキン層が厚くなります。そうなると、薄肉の場所は樹脂が流れることができないんです。
言われてみればそりゃそうだ、ってなるやつです。
ですので、塩ビの製品に薄肉は向かないということです。
射出圧力は若干高め
射出圧力は80~120MPaで、どんなに上げても150MPa程度までにしておきましょう。
塩ビは流動性が悪いので、ちょっと強めに押し込んであげるイメージです。若干高めにしておくほうがいいですが、いきなり圧力を上げちゃだめですよ。
圧力を上げすぎるとバリの原因になりますし、バリができると金型に変な癖がついてしまい、良品を作りにくくなってしまいます。
じゃ、型締め力を上げればいいじゃないか、という声が聞こえてきそうですが、これもあまりお勧めしません。型締め力が強いということは、金型の負担が大きいということなので金型の寿命に影響します。
なので、適切な射出圧力、型締め力で成形するようにしましょう。そのために、少しずつ射出圧力を上げて様子を見ながら成形していきましょう。
塩ビの特徴
こういろいろ注意点があると、そもそも塩ビってなんだっけ?とゲシュタルト崩壊のような状態になってしまうかもしれません。私はなってしまうタイプです。
簡単に塩ビの特徴をおさらいしていきましょう。
塩ビとは
正式名称はポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride)です。PVCと呼ばれる合成樹脂の一種で、汎用プラスチックです、
いろいろな樹脂をアルファベットの羅列で呼称するので、覚えておくほうが無難です、というか覚えないとしんどいです。
…お互いガンバって覚えましょう。
硬質塩ビと軟質塩ビ
添加物やグレードでいろいろな種類がありますが、塩ビを大きく分けると硬質塩ビと軟質塩ビに分けられます。当然といえば当然ですが、用途が全く違うんです。
硬質塩ビは、水道管、継手、看板、ダクト、雨樋、サッシ、波板、住宅用廻り縁などで使われています。
軟質塩ビは、ラミネートフィルムや子供向けのおもちゃ、文具、靴、カバンなどに使われています。
硬質塩ビは比較的強度が求められるところで使われていますね。
また、軟質塩ビの子供向けのおもちゃは1960年代から作られているので、もしかしたらみなさんも小さなころから触れていたかもしれませんね。
用途によってさまざまな硬さに成形することができるのは塩ビの強みですね。
塩ビの加工方法
加工方法もいろいろありますね。
押し出し成型、カレンダー成形、射出成形、真空成形、ディッピング、コーティングなど様々です。
この中で私たちは射出成形で塩ビ製品を作るわけですね。それぞれ非常に奥が深いですが、まずは射出成形を極めていきましょう。
塩ビの加工の難しさ
塩ビを語るにはどうしても外せない特徴があります。この特徴が加工の難しさの原因です。
それは熱安定性の悪さと粘度の高さです。
熱安定性が悪い
先ほども紹介した通り、塩ビは熱安定性が悪いのです。つまり、簡単に熱で分解しちゃいます。
高温環境下に置いたり、長時間滞留させたりすることで熱分解、つまりは樹脂の劣化が始まっていきます。こうなるといろいろなところに不具合が出ます。
前述の焼けの原因にもなります。この焼けによって金型のさびにつながることもあります。
しかも、注目するのはそこだけではないんです!
シリンダ内で炭化したら、スクリューの周りに炭化した樹脂がくっついて正常に成形できなくなってしまいます。こうなると、洗浄剤で洗うか、それでも無理ならシリンダを分解するしかありません。
熱安定性が悪いのは考え物ですよね。
粘度が高い
粘度が高いというとよさげな物性に聞こえるかもしれませんが、言い方を変えれば流動性が悪いということです。
流動性が悪いせいで薄肉の成形は難しいですし、摩擦熱が発生しやすくなってしまいます。
特に硬質塩ビは流動性が悪いので扱いには注意が必要です。
まとめ
射出成形ビギナーに向けて、塩ビを射出成形で精液する場合の注意点を解説していきました。
射出速度、射出圧力といった成形条件で何とかなるものもあれば、スプルーやランナーの長さや製品の厚さなど金型や製品の設計段階で意識しなければならないことも多くあります。
実際にやると、成形機や樹脂のグレード、製品形状により様々な苦労があると思いますが、基本的な考え方は大きく変わらないので、参考にしていただければ幸いです。