3Dプリンタの積層割れはなぜ起こる?原因と対策は?強度は上がる?

3Dプリンタ

数年前は結構な金額を払えば、3Dプリンタでフィギュアを作ることができる時代になりましたね。

最近では、個人でも購入できるような金額の3Dプリンタも広まり、様々なものをかなり高い自由度で造形できるようになりましたね。

みなさんも日々、想像しているものを造形されているかと思います。

その反面、問題解決能力もユーザーに求められるようになっています。

今回の記事では、3Dプリンタの不良の中でも積層割れに関して取り上げました。

3Dプリンタの開発業務を行っている私が、3Dプリンタの積層割れの原因や対策についてわかりやすく解説していきます。

 

3Dプリンタの積層割れとは

3Dプリンタで造形をして、不良があると一気に気持ちが折れてしまいますよね。

かなり技術が進んだといっても、まだまだ3Dプリンタで造形するとなるとそれなりの時間がかかりますからね。

そこまでガンバってできた!と思っても、不良があるとかなりきついものがあります。

なので、そういった悲しい思いを繰り返さないで済むように積層割れについて理解を深めていきましょう!

 

3Dプリンタでの積層割れのチェック方法

まずは、積層割れを判別できるようになっておきましょう。

積層割れをチェックするときは、まず、造形物を真横からぐるっと一周見てみてください。

そして、隙間や薄い部分がないかをチェックしてみましょう。

ここやばそう!となったら、そのあたりを中心に、少し強めの力を加えてみてください。

グッ、グッと、押す感じですね。

もし、積層割れが起こっていると、若干の力でもパリパリ…パキパキ…と破断するような音がします。

こうなれば、積層割れが起こっていると判断してください。

 

3Dプリンタの積層割れの原因は融着不良!

積層割れが起こりやすいのは、肉が薄い部分や熱い部分と薄い部分のつなぎ目、斜めになっている部分などで発生しやすい不良です。

造形が終わって、「よし完成!」とならないようにしてください。

気持ちはわかります、達成感ありますんもんね。

でも、金属であろうと樹脂であろうと3Dプリンタでは密度が大事です。

スカスカになっていたり、造形物の形状が積層割れの起こりやすい形状だったりしたら、パッと見しっかりできていそうでもNGな造形物というケースもあるんですよ。

 

これらの原因は融着が十分できていないということに起因します。

 

融着というのは、樹脂が溶けて、冷えて固まったときにちゃんと固まるかどうかということですね。

しっかり融着できていれば、ちゃんと溶けてちゃんとくっついている、ということです。

これを、「融着が強い」とか「融着できている」と表現します。

では、融着の強さは何で決まるかご存知ですか?

 

3Dプリンタでの積層割れの原因である融着不良を深堀しよう!

ずばり、

融着の強さ=樹脂温度×硬化時間×樹脂密度

の式になります。

あ、あくまでもざっくりですよ。

 

式の見方としては、それぞれの項目が大きな値であればあるほど融着は強くできるというイメージです。

例えば、樹脂温度であれば、高い方がしっかり溶けてくっついてくれそうですよね。

もし、融点(樹脂の場合は「融点」という言い方だけでは議論できないのですが、ここでは樹脂が溶ける温度とお考え下さい)ぎりぎりの温度では、ノズルから出たとたんに固まってしまって融着できなさそうなイメージができますよね。

同じように、硬化時間が短ければ、きれいに固まる時間が確保できないことになります。

樹脂密度も、スカスカだったら、そもそも融着できる材料がないでよね(笑)

そんな感じで、これらの値は高い方がしっかり融着する傾向にはあります。

どれか一つが極端に小さな値では融着がしっかりできない場合もあります。

 

あれですね、ビタミンみたいなイメージですね。

どれか一種類がかけてしまうと、効果がない、みたいな、あれですあれ。

ここまでをまとめると、積層割れの原因は融着にある可能性が高いです。

で、融着が不十分な場合は、樹脂温度・硬化時間・樹脂密度に問題があるということになるわけです。

 

3Dプリンタの積層割れの原因と対策6選

では、樹脂温度、硬化時間、樹脂密度の3つの観点を頭に入れていただき、6つの対策を紹介していきます。

これさえやっておけば大丈夫!というものはないので、いろいろな可能性を考えてみましょう。

様々なトライ&エラーを経て希望の造形物を造形するのも3Dプリンタの醍醐味の一つですからね!

 

3Dプリンタの積層割れ対策① 冷却ファンを調整

まずは、1つ目です。

これは樹脂温度や硬化時間に関するアプローチです。

3Dプリンタの装置をよく見てみてください。

3Dプリンタの装置には冷却システムが必ずついていますよね。

この冷却システムを微調整するのです。

具体的には、若干弱めてみたり、止めてみたりすることです。

冷却ファン等は温度を下げるためのものなので、温度は下がりやすい環境になります。

それらを弱めたり止めたりすることで、温度の下がり方はゆっくりになります。

また、造形物に対しても冷却システムがあれば、硬化時間も長くなります。

冷えるのに時間かかれば、そりゃそうなりますよね(笑)

このようなアプローチで融着を強くすることにチャレンジしてみてください。

ただ、やりすぎると、必要以上に熱を持ってしまい、故障につながる可能性もあるんで、やるなら徐々に弱めていってみてください。

 

3Dプリンタの積層割れ対策② ノズル温度を上げる

対策①と同じ理屈で、樹脂温度と硬化時間のアプローチです。

対策①では冷えにくい環境にしようとしました。

対策②では、冷却の仕方は変えずに温度を上げてみよう、ということです。

ノズル温度を上げることで、樹脂の温度は上がりますよね。

樹脂の温度が上がれば、冷えるまでの時間が長くなるので、硬化時間も自然と長くなります。

アプローチの仕方は違えど、考え方は対策①と全く同じです。

注意点として、ノズル温度を上げすぎないことです。

上げすぎると、樹脂(フィラメント)の劣化につながります。

樹脂によって異なりますが、温度が高すぎると熱分解が始まっちゃいますからね。

流動性も変わるので、こちらもやはり様子を見ながら少しずつ条件を振ってトライしてみてください!

 

3Dプリンタの積層割れ対策③ 吐出量を減らす

対策③は樹脂密度に対するアプローチです。

単位時間当たりの吐出量を減らすという方法です。

わかりやすく言えば、「1秒あたりにどれくらいの樹脂を出すか」という条件を変更することです。

ノズル温度と造形物にたどり着いたときの樹脂の温度は当然違いますよね。

なので、ノズルから吐出する量を少なくすれば、温度のばらつきは小さくなります。

また、それだけでなく、少しずつしっかり造形できるので、隙間が埋まりやすい傾向にあります。

つまり、造形後の密度が高くなりやすいというわけです。

 

いやまて、量減らしただけではスカスカじゃないか?

と思ったそこのあなた!

正解です。

単位時間当たりの樹脂の吐出量を減らしただけでは、予想通りスカスカになります。

なので、他にも調整するパラメータがあります。

具体的には、積層ピッチ造形速度です。

今まで50μmずつ造形していたものを20μmずつにしたり、100mm/sで造形していたものを60mm/sに変更したりといった調整です。

こういったアプローチで造形物の密度を上げることを目指してみるのも積層割れ対策のひとつの方法になります。

 

3Dプリンタの積層割れ対策④ 庫内の温度を上げる

対策④は熱に関するアプローチです。

温度が高い環境から温度が低い環境に持っていくと、急激に温度が下がり、残留応力等の関係で割れが発生しやすくなります。

温度差が大きいとダメってわけですね。

 

造形している場合は、

温度が高い⇒造形直後の樹脂(溶けてますからね)
温度が低い⇒庫内

となっているのは想像できますよね?

この「温度が低い⇒庫内」を変更するわけです。

庫内の温度を上げれば、温度差が小さくなるので、積層割れは起こりにくくなります。

 

3Dプリンタの積層割れ対策⑤ フィラメントの乾燥

これは、根本的な装置の問題になります。

ある意味、融着以前の問題ですね。

フィラメントを十分に乾燥させましょう。

というのも、3Dプリンタに限らず、樹脂を扱うものは水分が天敵になります。

射出成形なんかだともろに不良の原因になっちゃうんですよ。

なので、水分が悪さをしないように、フィラメントを十分乾燥させて水分を完全に飛ばしてしまいましょう。

ある意味では装置メンテナンスとも言えますね。

 

3Dプリンタの積層割れ対策⑥ フィラメントの予熱

こちらも準備になりますが、樹脂温度に関連するアプローチです。

熱の伝わり方は物によって違うのはご存知ですよね。

金属は伝わりやすい、とかです。

樹脂も同じなんですよ。

樹脂によって熱が伝わりやすかったり伝わりにくかったりといろいろあるわけです。

で、造形開始のタイミングで熱が十分伝わっていないと、あなたの想定通りにフィラメントが溶けなくて融着が弱くなってしまいます。

なので、そういった心配を成すために、フィラメントを予熱してみてください。

 

3Dプリンタの積層割れに関する注意点

3Dプリンタの積層割れの6つの対策を紹介しましたが、2つほど注意点があります。

 

3Dプリンタの積層割れの注意点①

まずはひとつ目です。

熱には十分注意を払ってください。

先ほどもお伝えした通り、融着は樹脂温度と硬化時間と樹脂密度で決まります。

これまでの説明とこの関係からも熱の影響は大きいということは想像できると思います。

熱に注意を払うというのは、造形したい物の形状にも大きな関係があるということです。

 

具体的には表面積です。

イメージでいますか?

表面積が大きいと、例えば1層目の最初と2層目の最初まで長い時間がかかってしまいます。

こうなると、次の樹脂が来るまでに熱が逃げきってしまうケースもあるんですよ。

そうなると、融着の不良が起きてしまうのは想像できますよね。

熱の影響は反りやクラックにも影響を与えるパラメータで、これらが発生すると融着が弱くなります。

その結果、積層割れにつながってしまうのです。

 

3Dプリンタの積層割れの注意点②

ふたつ目は強度です。

3Dプリンタの積層方向の強度を上げるのはどうしても限界があります。

樹脂や形状によっても変わってきますが、作り方の性質上、強度には割と早い段階で限界に達してしまうこともあります。

金属材料とは比較できませんよ。

なので、けが等につながりそうな重要な機構部品には使わないようにしましょう。

 

3Dプリンタの積層割れ対策のまとめ

今回は3Dプリンタの積層割れについて紹介してきました。

積層割れは融着の弱さに起因します。

そして融着は、樹脂温度と硬化時間と樹脂密度で決まってくるので、バランスよくこれらを増加させていくことが対策になります。

具体的な6つの対策は、

① 冷却システムの調整
② ノズル温度を上げる
③ 単位時間当たりの吐出量を減らす
④ 庫内温度を上げる
⑤ フィラメントの乾燥
⑥ フィラメントの予熱

になります。

3Dプリンタでは熱の影響が造形物のクオリティに大きく関係します。

すべてを最適化できても、強度には限界があるということも頭に入れておいてください。

限界の判断も難しいですが、少しずつパラメータを調整して、質の高い造形物を目指してください!

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