3Dプリンタで造形をしていると、誰もが一度は経験するであろう不良、それは「反り」です。
金属であろうと樹脂であろうと、反る時は反りますよ。
というか、3Dプリンタだろうと射出成形だろうと、反りが100%無いということはあり得ません。
大切なのは、いかにして許容できる範囲の反りに抑えるかということです。
材料に対しても造形モデルに対してもピッタリな条件でないと反りのリスクはあります。
そして、よくある不良なだけあって、細かく見れば原因も多岐にわたります。
この記事では、3Dプリンタの反りの対策について、原因を整理するところから紹介していきます。
私は、実務でも3Dプリンタの開発を行っていますが、その経験もあわせてわかりやすくお伝えしますね。
3Dプリンタの反りの確認方法と4つの原因
早速ですが、3Dプリンタの造形物の反りについて考えていきましょう。
まずは反りの確認方法から見ていきましょう。
3Dプリンタの反りの確認
現象としては、文字通り「反り」が確認出来たら不良認定です。
数ある不良の中でも見つけやすい不良ではないでしょうか?
規模の大小はいろいろありますが、平らな机の上に置いて四隅を押し込んでみるようにすれば、判別はしやすいと思います。
最近私が関わっている3Dプリンタのプロジェクトでは、そんなことせずともがっつり反っちゃってるんですけどね(笑)
では、反りが判別できたところで、原因について考えていきましょう。
3Dプリンタの反りの原因
反りの原因は主に2つです。
熱と樹脂の2パターンに分類できます。
反りの原因① 熱
まず、3Dプリンタといったら切っても切り離せない熱の影響です。
熱は非常に厄介ですよね。
大前提として、世の中のほぼすべての物質は固体の方が体積は小さくなります。
温度が下がると収縮すると考えてください。
さらっと「熱」といっても3つの熱の影響が考えられるんです。
ノズルから樹脂が吐出されるところから順番に見ていきましょう。
① ノズルから吐出した樹脂の急冷
ノズルから樹脂が出たその瞬間、樹脂は急激に熱を奪われます。
想像してみてください。
ノズルで保温されていたところから、何もない空間に飛び出すわけですから、そりゃ急激に熱を奪われますよね。
熱が急激に奪われた場合、収縮も一気に起こります。
つまり、強い力で引っ張られるんです(残留応力っていいます)。
収縮の時に引っ張る力が強いので、反りにつながってしまうというわけです。
② 状態変化による樹脂の収縮
続いて、樹脂が固体になる瞬間です。
水のような例外もありますが、基本的には液体から固体になると体積は小さくなりますよね。
このときに収縮が起こっています。
体積が小さくなっているわけですからね(笑)
樹脂が収縮するということは、ぎゅーっと内部に引っ張られるわけですから、これも反りにつながります。
③ 温度低下による樹脂の収縮
最後は、固体の状態でも温度が高い環境から低い環境に移った場合の収縮です。
同じ固体であったとしても、温度によって密度は違うんですよ。
なので、温度を変更すると体積も変わるんです。
造形が終わって、熱を持った状態から室温に戻るときにも樹脂は収縮を起こします。
ここでも反りが発生する可能性があるのです。
多いですよね、反りが発生するポイント…。
反りの原因② 樹脂
続いて、反りの原因のもうひとつ、樹脂によるものです。
樹脂には(樹脂じゃなくてもですが)収縮率と呼ばれる物性が存在します。
わかりやすく言えば、温度が変わったときにどれくらい体積が変化するか、という指標です。
収縮しやすい樹脂もあればしにくい樹脂もあるんです。
ぶっちゃけますと、これはある程度仕方がないです。
樹脂そのものの特徴なので…。
具体的には、PLAという樹脂はあまり収縮しませんが、ABSは結構収縮しやすいです。
また、ABSは造形温度も高いので、先ほどお伝えした温度差も大きく、反りやすさはPLAよりもずっと上になります。
樹脂ごとの特徴なので、PLAの造形温度ではABSは造形できません。
なので、これらは樹脂固有なので仕方がないものになります。
樹脂の変更を検討するのも視野に入れてもいいかもしれません。
3Dプリンタの反り対策5選
熱と樹脂、この2つが主な原因とご理解いただけたと思います。
では、具体的な対策について考えていきましょう。
3Dプリンタの反り対策① 造形中の温度を上げる
これは庫内の温度を上げるということです。
庫内の温度を上げることでサウナのようにしてしまうというわけです。
例えば、造形終了時に造形物の温度は100℃だったとしましょう。
これを例えば20℃の室温の環境に取り出したとします。
そうすると、一気に100℃から20℃までの温度変化が起こってしまいますよね。
温度が急激に変化するとその分、応力が大きくなるので、収縮は大きくなります。
しかし、庫内をサウナのように50℃にキープしたとしましょう。
そうすると、100℃⇒50℃⇒20℃と温度変化は少しずつになります。
この方が応力の影響が一気にはかからないので、反りは発生しにくくなります。
3Dプリンタの反り対策② 熱が逃げるのを防ぐ
対策①と同様に庫内の保温をするという考え方です。
考え方は対策①と全く同じなので、ここでは具体的な保温方法を紹介します。
基本的には3Dプリンタの装置全体を断熱材で囲むということです。
はい、物理的にガンバるわけです(笑)
一番身近なものは、発泡スチロールで囲んでしまう方法です。
発泡スチロールは入手性の良い断熱材です。
もう少しガンバれそうな方は、スタイロフォームという材料を検討してみてください。
スタイロフォームは建築用の資材で、ホームセンターで入手可能なほど入手性がよいものです。
DIYでも使われるくらい、手が出しやすい価格です。
カッター等で簡単に加工できるので、人によっては発泡スチロールより扱いやすいと感じるかもしれません。
このスタイロフォームで3Dプリンタ全体を囲ってみるのもアリです。
一点、注意してほしいことがあります。
それは、熱による早期劣化です。
おそらく、メーカーが想定しているよりも熱がこもるようにしていることになります。
そうすると、劣化もメーカーが想定しているよりも早くなる可能性があります。
なので、メーカー推奨以上の保温を思想にするなら、様子見ながら自己責任でトライしてください。
3Dプリンタの反り対策③ アンカー効果の活用
続いて、そもそも反りにくいセッティングにしてしまおうという発想です。
これも対策②と同様、物理的にガンバる方法です。
原理をお伝えすると、アンカー効果と呼ばれる現象を利用することです。
アンカー効果とは、簡単にいえば、凹凸に引っ掛けることではがれにくくするということです。
船のいかりをイメージしてください。
ツルツルの面では、いかりが引っ掛かることができませんよね。
でも、凹凸のある面だったら、いかりがしっかりと引っ掛かってくれそうですよね。
これがアンカー効果です。
これを3Dプリンタでも活用するわけです。
プラットフォーム(造形ステージ)に凹凸を作ってしまおうという方法です。
具体的には、3つの方法が挙げられます。
3Dプリンタの反り対策でアンカー効果の活用例①
1つ目は、凹凸のあるプラットフォームシートを使うことです。
手で触ってざらざらするくらい凹凸が激しいものも、触ってもわからないくらい微細な凹凸のものもあります。
どちらが適しているかは樹脂や造形物次第なので、試してみるのがいいと思います。
3Dプリンタの反り対策でアンカー効果の活用例②
2つ目はのりです。
工作や書類を貼り付ける時に使うのりです。
あれを使うことで微細な凹凸にのりが入り込んでアンカー効果UPします。
3Dプリンタの反り対策でアンカー効果の活用例③
3つ目は溶融樹脂です。
造形直前に溶融樹脂をのりと同じように使う方法です。
温度が高い分危ないので、これをやるときは注意してください。
3Dプリンタの反り対策④ 造形条件の変更
前述の通り、反りは熱の影響が大きいです。
ですので、熱の影響を変更してやろうという発想です。
具体的には造形条件を変更するという方法です。
メーカー推奨や過去の経験で「なんとなくよさそうな条件」は出ていると思います。
そこを変更するのです。
出力を変えたり、速度を変えたり、捜査ピッチを変えたり、いろいろパラメータは変更できるはずです。
これを調整することで熱の影響を変え、反りを改善しようとするわけです。
なかなか難しいですが、挑戦する価値は十分あります。
条件の変更はなかなか難しいですが、ポイントは「変えない条件を決める」ことです。
3Dプリンタの反り対策⑤ 熱処理を行う
最後は、造形物に熱処理を行う方法です。
具体的には、アニール処理と呼ばれる熱処理を施すのです。
反りが発生するのは残留応力があるからです。
わかりやすく言うと、収縮したことで見えない力がずっとかかっている状態というわけです。
アニール処理は、樹脂が柔らかくならない程度の温度(ガラス転移点よりも低い温度)でしばらく保持する処理です。
このようにすることで、変形しないように全粒応力を開放するイメージです。
そうすることで残留応力の多くが解消され、反りは発生しにくくなります。
アニールのために工程が一つ増えるので大変ですが、残留応力の一部を解放できるのは大きなメリットです。
3Dプリンタの反り対策のまとめ
今回は3Dプリンタでの造形で発生する反りについて解説しました。
どうしても、熱による影響は避けられませんし、熱と向き合うことになります。
樹脂だろうと金属だろうと、3Dプリンタである以上、熱の問題は避けられません。
対策は、
- 庫内の温度を上げる
- 断熱材で装置を覆う
- アンカー効果の活用
- 造形条件の検討
- 造形物の熱処理
の5つが挙げられます。
これらを駆使して、反りのない良品の造形に挑戦してみてください!